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同一労働同一賃金について【前編】

2022.06.23 コラム

言葉が独り歩きしている感じがしないでもない、「同一労働同一賃金」。平成31年4月からのパートタイム労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の改正施行によって中小企業においてもスタートしましたが、そもそもは、は「同一価値労働同一賃金」原則。同じ価値の労働なら、契約期間の定めの有無や、労働時間の長短で差を設けることに理由がないというもの。 欧米諸国では、労働契約そのものが、職務を基準とした契約になっているため、日本の長期雇用を前提とした正社員制度とは、考え方そのものが異なることに原点を置きます。 ILO(国際労働機関)では、1951年に同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約(ILO第100号条約)を採択し、1958年に雇用及び職業についての差別待遇に関する条約(ILO第111号条約)を採択しました。 日本は、ILO成立当初からの加盟国であり、現在批准した条約は49あります。

そんな中、なんで今更的⁈

「同一労働同一賃金」と「同一価値労働同一賃金」では、言葉が異なるため、若干、受け止めるニュアンスは異なりますが、なんとなくは分かります。(この何となくわかるというところで、言葉が独り歩きしている感もあります)。

差別禁止としての労働基準法の規定は、

均等待遇

第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

男女同一賃金の原則

第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

➡国籍、信条、社会的身分をもってして労働条件で差別的取り扱いはダメ!

➡女性であることについて、賃金で差別してはダメ!

これのみに留まります。 男女雇用機会均等法では、 労働者の募集・採用・配置・昇進・降格・教育訓練・一定範囲の福利厚生・職種や雇用形態の変更・退職の勧奨・定年・解雇・労働契約の更新など、雇用管理の各ステージにおいて、性別を理由に差別することを禁止しています。 では、いまさら何故ですが、いわゆる「同一労働同一賃金」が求めているのは、「均衡待遇」と「均等待遇」。

①均衡待遇:不合理な待遇差の禁止

②均等待遇:差別的取り扱いの禁止

労基法、雇用機会均等法いずれも、性別や、社会的身分など変えることのできない事を前提にしていますので、労働の価値には触れていません。

じゃあ、他に規定はないの?

期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

(労働契約法 旧第20条)有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 判例から積み重なってできたのが、労働契約法で、ようやくここで、期間の定めの有無による、不合理な待遇差は禁止ということになります。(平成25年4月施行)

じゃあ、時間の長短は⁈

それが平成31年4月から全面施行されたパートタイム労働法です。労働契約法の旧20条が削除され、パートタイム労働法へ移行した形で法整備されました。

「パートタイム労働法:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」

(不合理な待遇の禁止)

八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

ここでようやく短時間労働者に対しても均衡待遇・均等待遇を図りなさいということになりました。

第8条が「均衡待遇」、第9条が「均等待遇」になります。

第9条では、差別的取り扱いをしてはならないと規定していますが、第8条はどうでしょうか。条文下段「不合理と認められる相違を設けてはならない」とされています。 つまり、均衡待遇については、「不合理」でなければよく、「合理的」であるまでは求められていないことになります。 この条文を読まずにおくと、「同一労働同一賃金」が言葉の独り歩き状態となります。

じゃあ会社として何やっておくの?

 パートタイム労働法で

(事業主が講ずる措置の内容等の説明)

第十四条 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、第八条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

2 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

3 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定されています。つまり、賃金(特に手当、賞与など)などについての差について、説明を求められたら、「不合理ではない」ですよ、という説明義務があります。 理由について、合理的であることが一番ですが、合理的までは求められていません。

例えば、「社員さんには、通勤手当が出るのに、なんでウチら、パートには通勤手当でんのん⁈」

➡「正社員だから出るんよ」×NG

➡「通勤手当は、所得税法の非課税の範囲内で支給するって、就業規則に書いてあるけぇ、みんな近いじゃん。だから出んのよ」〇

こんな感じかと思います。ちなみに法の条文(というか、法律名)見てもらえばわかりますが、ここで問題となっているのは、正社員VS パート・有期雇用社員です。正社員同士は法律には触れません(が、社内的に問題ありかも)

その他にも家族手当、住宅手当、あと、賞与、退職金についても賃金規程の整備が必要です。

令和4年10月以降のキャリアアップ助成金では、昇給制度、賞与または退職金制度があるのが、正社員とされましたので、規定の仕方に注意が必要です。

今回の同一労働同一賃金については、リーディングケースとして、様々な判例があります(メトロコマース、ハマキョウレックス、長澤運輸、日本郵政など。特にハマキョウレックスと長澤運輸事件判決は、同一の日に判決(平成30年6月1日)が出て、パートタイム労働法改正の引き金にもなりました)

そこは次回(続けば・・・)にします。 ちなみに罰則としては、過料になります。 過料は行政処分(行政罰)ですので、前科がつくとか、そういうものではありません。刑法でいう科料は刑事罰ですから前科1犯ということになります。 労働条件の通知を行ったことと、厚生労働大臣への報告等を怠ったり、虚偽報告が過料の対象となります。 厚労省で所管しているのは、各都道府県労働局の雇用・環境均等室になります。 (続く・・・かも)

 
執筆者情報
社会保険労務士法人スペース 代表社員 山本圭一
保有資格代表 社会保険労務士
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